
リフォーム詐欺の被害報告が後を絶ちません。
国民生活センターに寄せられるリフォーム詐欺に関する相談件数は年々増え続けていて、2016年から18年 にかけて訪問販売によるものは約6600件から約7200件まで増加しています。
悪質な手口に引っかからないためにはどうすればよいのでしょうか。
事例を交えて対応を考えてみたいと思います。

神奈川県川崎市に在住のSさんは70歳。
5つ年上のご主人は2年前に他界され、2人いる息子さんは仕事の関係で、それぞれ大阪と福岡に住んでいるため、 今はお一人で築45年の木造戸建てに住んでおられます。
そんなSさんのもとにある日、見知らぬ男性が訪ねてきました。
「こんにちは。たまたま家の前を通りかかったらお宅の屋根が見えました。だいぶ傷んでいるようなので気になってお声をかけさせていただきました」
男は、そう言って名刺を一枚差し出しました。
そこには「Y建築デザイン」という聞きなれない会社の名前が書かれていました。
「本社は横浜なのですが、事業拡大でこの辺りまで挨拶で回っているんです。 屋根の状態が心配なので、良かったら少し見せてもらえませんか?費用は一切頂きませんのでご安心ください」
男は営業的な話は一切せず、善意であることをアピール。
最初は警戒していたSさんも、話を聞くうちに段々と、「お金がかからないならいいか」と、とりあえず見てもらうだけなら構わないかと思うようになりました。
Sさんの了承を得た男は、すぐに車から梯子を下ろしてくると、慣れた手つきで家の壁に固定し、そそくさと屋根に上がって行きました。
そして30分後、心配そうな顔つきで下りてくると、Sさんに次のように告げました。
「やっぱり思った通りでした。今までほとんどメンテナンスをしていなかったためか、かなり傷んでいるようです。何枚か瓦にヒビが入っていますし、葺き土が欠け落ちてしまっているところもあります。このまま放っておけば、そのうち 屋根から雨漏りするかもしれません」
思いもしなかったことを突然告げられたSさんは大変驚きました。
しかし、自分で直接屋根の上を確かめることができたいため、仕方なく、男にどうすれば 良いのかと尋ねました。
すると男は、「うちなら明日にも対応できますよ。これも何かの縁です。社長とも相談して特別なお値段で修理させていただきます。 見積書をご用意しますので、とりあえずこちらの契約書にサインをください」と言いました。
雨漏りに対する不安からSさんは、言われるがままサインをしてしまいました。
ここまでの話を聞く限り、「何の問題もないじゃないか」と感じている方がほとんどではないでしょうか。
しかし、これこそが悪徳業者の常套手段なのです。
偶然を装ってやって来ると、「無料点検」をエサに家の中に上がり込み、「重大な欠陥が見つかった」と言って不安を煽ります。
こんなことを言われたら、 たいていの方は焦ってしまいます。
実際、Sさんもこの時点ですでに、業者の罠に嵌ってしまっていました。
翌日、男はスタッフ1人を連れて再びSさんの家にやってくると、工具箱のようなものをもって屋根にのぼり、何やら作業を始めました。
そして1時間後、屋根から降りてくると言いました。
「修理は終わりました。これでもう雨漏りの心配はありません。ところでこちらが
今回の修理の費用です」
金額を見てSさんはとても驚きました。
たったの1時間の作業だったにもかかわらず、請求額45万円となっていたのです。
いくら何でも高過ぎる感じたSさん でしたが後の祭り。
男は「雨漏りしていたら、被害はこんな金額じゃ済みませんよ。それを考えたら安過ぎるくらいですよ。今週中に指定の口座に振り込んでください」と言って請求書を置くと、さっさと道具を片付けて帰ってしまいました。
困り果てたSさんは、大阪にいる息子さんに事の次第を報告。
心配した息子さんは、すぐに東京のリフォーム会社に勤める知人Xさんに相談し、改めて屋根の状態を確認してもらうことにしました。
その次の日、屋根の点検を終えたXさんの報告を聞いてSさんは、驚愕の事実を知ることになりました。
なんと、屋根には確かに劣化した箇所があったものの、すぐに修理が必要なほどの状態ではなく、それどころか、修理をしたような形跡も一切見つからなかったというのです。
Sさんはここで初めて、自分が騙されたことに気付きました。
すぐにXさんのアドバイスに従い、国民生活センターに通報。
結果、振り込み期日を過ぎても男たちから連絡が来ることはなく、 事なきを得ました。
悪徳業者たちは、言葉巧みに不安を煽ります。
そして考える時間を与えない ように、間髪をいれず工事を始め、断れない状況に持ち込もうとします。
◆『住生活新聞』2020年2月号(044号)より