悪質なリフォーム詐欺が後を絶ちません。
頻繁に注意喚起されているにもかかわらず被害者の数が減らないのはなぜでしょうか?
それは皆さんの心のどこかに。。
「自分は大丈夫」
「自分を騙したところで大した得にはならないだろう」
という油断があるからに他ありません。
実例を参考に詐欺に引っかからないための対策について学びましょう。
============
神奈川県川崎市に在住の斎藤洋子さん(仮名・68歳)のお宅にリフォーム会社の営業マンを名乗る男性が訪ねてきたのは2016年の4月。
斎藤が庭にあるプランターにいつものように水撒きをしていると、
「こんにちは、近くの家で屋根の工事をしている工事会社の者です。近くを通った際にこちらの家の屋根の傷み具合が気になったもので、寄らせていただきました」
と、30代ほどの男性が突然声をかけてきたそうです。
日頃から
「訪問販売の類の話には耳を貸さないように」
と離れて暮らす長男に言われていた齋藤さんは
「ごめんなさいね。困りごとがあるときは昔からお世話 になっている工務店さんにお願いしているので、お引き取りいただけますか」
と断りました。
するとその男性は
「そうでしたか。それは失礼しました。それではその業者さんに屋根の漆喰部分が傷んでいるようだと話してみてください。おそらくすぐに直してくれると思いますから」
と言って、その場を立ち去りました。
特にしつこくする でもなく素直に引き上げた男性の後姿を見た斎藤さんは、
「よくある押し売りかと思ったけど、どうやら勘違いだったようね」
と安心したそうです。
それから2週間ほど経ったある日、齋藤さんが家の掃除をしていると突然インターホンが鳴りました。室内のテレビモニターを見ると、そこには例の男性の顔が映っていました。
「こんにちは。久しぶりに家の前を通ったら、まだ屋根の修理をされていなかったようなので心配になってお伺いしました」
実は、2週間前に屋根の傷みを指摘された際、齋藤さんは漆喰部分が黒く変色していることに気付いてはいました。
ところが、いつも頼んでいる業者というのが実は家の中の工事を得意としている業者だったため、
「早めに何とかしなきゃ」
と思いながらも結局相談できないまま放置していたのです。
そんな斎藤さんの気持ちを見透かしたように男性は
「もしよければ、お金は一切頂きませんので点検だけでもさせていただけませんか? 30分程度で終わりますし、状況が分かればお世話になっているという工事業者さんにも頼みやすいでしょうし」
と提案しました。
齋藤さんはしばらく考えた後、この提案を受け入れ、男性に屋根の上に登ることを許可しました。
男性はすぐに近くに止めてあった車から梯子を持ってくると、 ロープで倒れないようにしっかり固定した後、器用に屋根の上に登っていきました。
そして30分後、男性は下りてくるや齋藤さんに対し、
「思ったよりも状況は厳しそうですね。下から見える部分だけでなく、かなりあちらこちらに痛みが確認できました。このまま放置していたら遅かれ早かれいずれ雨漏りなどが発生するかもしれませんね」
と言い、屋根の上で撮影したという写真を何枚か齋藤さんに見せました。
そこに映っていたボロボロの漆喰を見た斎藤さんは、「これは確かにひどい。本当に雨漏りするかもしれない」
と思い、その場で
「実はいつも頼んでいる業者は 家の中の工事しかできないので、どうしたものかと悩んでいたの。もしよければおたくで修理をお願いできないかしら」
と頼んでしまいました。
男性は
「ちょうど良いタイミングです。キャンペーン中なので、お安く工事できます。すぐにお見積りするのでちょっとお待ちくださいね」
と言って、手元にあっ たタブレットですぐに修理にかかる費用を計算し始めました。
5分ほどして。。
「漆喰の補修だけで大丈夫だと思うので、だいたい30万円になります。他の業者であれば45万円くらいはかかりますね。かなりお値引きした金額ですので、この場でサインをいただくことが条件となります」
と男性は言いました。
すでに写真を見ていた齋藤さんはすっかり信じ込み、その場でサインをしたそうです。
「善は急げです。早速、職人を手配しますので、明日には工事に取り掛かれると思います。」
と言って、男性はその場を切り上げました。
そして翌日、約束通り作業服を着た職人だと思われる男性を伴って齋藤さん宅にやってくると、点検のときと同じように2人して屋根の上に登っていきました。
そして30分ほどして戻ってきました。
「無事、修理が終わりました。これで今日から枕を高くして眠れますよ」
「もう終わったんですか!? 思ったよりもひどい状況だったという割にずいぶん早く終わったんですね?」
「我々はプロですから悪いところさえ分かれば修理はすぐに終わります。それでは こちらにサインをいただき、代金の精算をさせてもらいますね」
「そんなもんなのですかね」
齋藤さんはなんとなくすっきりしないものを感じながらも代金の30万円を支払いました。
数日後、齋藤さんは別件で息子さんと電話で話している際に、屋根の修理のことを話しました。
すると息子さんは
「それってよくある手口じゃないの? 30分で作業が終わったっていうのも怪しいし、そもそも見せられた写真って本当にうちの屋根の写真だったの?」
と言いました。
齋藤さんが
「屋根に上がったことなんてないから本当にうちの屋根だったかどうかなんて分からないわよ。でも、ボロボロになった漆喰だけはしっかり映っていたわよ」
と答えると、不安になったらしい息子さんは週末に屋根の塗装会社で働いているという知人を伴ってやってくると、一緒に屋根の上の点検をはじめました。
約1時間後、屋根から降りてきた息子さんは齋藤さんに結果を言いました。
「思った通り、どこにも修理をした形跡なんてなかったよ。屋根のプロにも見てもらったから間違いない。その男性は、屋根を修理したフリをして30万円を騙し取ったんだよ。念のため、領収書の電話番号にもかけてみたけど、つながらなかった」
「でも写真には確かにボロボロの漆喰が...」
「きっと、どこか別のところで撮影した写真でも見せられたんだろうね」
こうした偽の画像を使った手口は悪質業者の常套手段です。
たいていは屋根や 床下など施主が直接確認できない場所が利用されるため、ついつい引っ掛かってしまいます。
騙されないためには絶対にその場で契約せずいったん家族と相談すると言ってその場を引き取ってもらい、第三者の意見を聞くようにしましょう。
万が一、契約してしまったとしても8日以内なら解約することができます。
必ずご家族や消費者センターなどに相談してください。
◆『住生活新聞』2021年2月号(056号)より
住まいや生活に関するお困り事は「ミヤハウグループ」にご相談ください。